会社への通勤はもちろんのこと、取引先や出張先への訪問等等、単なる移動であれば原則労働時間ではありません。一方この分野は裁判が多く行われてますが、移動時間が労働時間か否かの判断基準はその移動が指揮命令下に置かれているか否かです。出張中の移動であっても、飛行機でも電車でもただ目的地に行くだけであれば指揮命令下ではありませんが、その間にプレゼン資料を作成したり、会社への報告義務が課されている場合には、指揮命令下といえるでしょう。
この辺は判断が難しくなるので、移動時間に関す規程を作成しておくことも有効です。特に労働時間にしたくないのであれば、就労義務を負わないことの明示するべきでしょう。
一 労働基準法の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。
二 労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法の労働時間に該当する。
三 就業規則により、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、また、始終業の勤怠は更衣を済ませ始業時に準備体操場にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた造船所において、労働者が、始業時刻前に更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、副資材等の受出しをし、散水を行い、終業時刻後に作業場等から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等の脱離等を行った場合、右労働者が、使用者から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされ、副資材等の受出し及び散水を始業時刻前に行うことを義務付けられていたなど判示の事実関係の下においては、右装着及び準備体操場までの移動、右副資材等の受出し及び散水並びに右更衣所等までの移動及び脱離等は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、労働者が右各行為に要した社会通念上必要と認められる時間は、労働基準法の労働時間に該当する。
三菱重工業長崎造船所事件 最高裁 H12.3.9
「被告Xの建築現場で職務に就く社員の所定就業時間(現場での作業の開始時刻から終了時刻まで)は、午前8時から午後6時までとされており、実際もそのように運用されていた。原告Yは、出勤の際、会社事務所に立ち寄り、車両により単独又は複数で建築現場に向かっていた。この車両による移動は、Yが命じたものではなく、車両運転者、集合時刻等も移動者の間で任意に定めていたことが認められる。
これらの事実によれば、Yが行った会社事務所と工事現場との往復は、通勤としての性格を多分に有するものであり、これに要した時間は、労働時間、すなわち、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間に当たらないものというべきである。
阿由葉工務店事件 東京地裁 H14.11.15